大阪高等裁判所 昭和37年(く)42号 決定 1962年7月25日
少年 R(昭二〇・六・二生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
抗告趣意第一点について
論旨は、原決定は少年Rがその摘示の各非行において他の共同非行者の行為と分別することなく、全く同一の責任を負うべき行動に出たかの如き事実認定をしているが、元来少年法一条の趣旨に鑑みると保護事件においては各非行少年の行為を個別的具体的に認定すべきであり、殊に少年Rは原決定摘示の各非行において他の共同非行者に比し追随的立場にあつたのに過ぎないのであるから、これを明らかにしなかつた原決定には重大な事実の誤認がある、というのである。
よつて記録を精査して検討するのに、原決定が少年につき、T、Nと共謀のうえ摘示第一の傷害の非行を、又J、Nと共謀のうえ摘示第二、第三の各恐喝の非行をした旨摘示しながら、右各共謀にかかる非行において少年がどのような行為を分担したかを個別的具体的に示さず又共同非行者間でどのような地位にあつたかを明示しなかつたことは所論のとおりである。しかしながら、少年が右Nらと共謀して原決定摘示の傷害及び各恐喝の非行を共同実行したことは記録によつて優にこれを認めることができ、原決定もまた右共謀にかかる各非行事実を日時、場所、方法等によつて特定しながら具体的に摘示していることが明らかであるから、右非行において少年がどのような行為を分担し又共同非行者間でどのような地位にあつたかを明示しなくても、なんら欠くるところはなく、もとより少年法一条の趣旨に違反する違法な摘示であるということはできない。のみならず、記録によると、少年は右各共同非行において自ら進んでその実行行為の一部を分担する等その地位、役割は決して所論のような追随的なものでないことが認められるのであつて、他に原裁判所の認定事実につきその誤認を疑うに足りる資料は全くないから、論旨は理由がない。
抗告趣意第二点について
論旨は、少年にはさきに審判不開始又は不処分の決定を受ける程度の非行があつただけで、保護処分を受けたことはなく、本件非行においても少年は他の共同非行者に対し追従的立場にあつたに過ぎず、被害の程度も決して大きくはなく、しかもこれに対してはかなりの程度の弁償がなされており、他方少年の両親には少年に対する愛情とその保護についての熱意があり、少年にも自ら立直ろうとする意欲があり、職場も保証されていて雇主においても自ら少年の保護監督に任ずべき旨を誓つており、少年の知能指数及び性格も特に悪質という程ではないからこの際少年を中等少年院に送致していわゆる少年院帰りのらく印を押すよりも、むしろこれを保護観察に付して自立の機会を与え更生を促がすほうが適切な措置であるから、原審がした少年を中等少年院に送致する旨の処分は著しく不当である、というのである。
しかしながら、本件非行の態様をみると、少年は前記Nらと共謀のうえ相共にパチンコ遊戯中の市民に因縁をつけてこれに傷害を負わせたり学校内で多数の生徒から時計等を喝取するなど甚だ悪質であり、右共同非行の際における少年の態度や役割も自ら進んでその実行行為の一部を分担するというように積極的であつて、決して所論のように追従的なものでないこと、少年は意思薄弱で依存性が強く、不良の徒と交わり、昭和三六年三月中学校を卒業した後一時研磨工見習等をしていたこともあつたが嫌になつた等の理由でやめてからは正業に就くことを厭い、常にパチンコ遊戯場やダンスホールに出入りして徒食し、夜も自宅に帰らないで友人らと共に安宿に泊ることがある等その生活態度は甚だ乱れていること、少年はさきに窃盗、贓物牙保等の非行があつたが事案軽微等の理由で審判不開始又は不処分の決定を受けたところ、さらに反省することなく本件各非行を重ねたものであつて、既にある程度非行癖を身につけていることがうかがえること、他方少年の両親は少年に対し強い愛情をいだいていることは否定し得ないが、少年の指導、教育については無関心、放任的であつて(このことは、両親が少年の前記生活態度を放任していたことや、さきの少年に対する窃盗等及び贓物牙保各保護事件において家庭裁判所からたびたび呼出を受けながら容易にこれに応ぜず、結局援助の警察署より出頭方を厳達されて漸く同裁判所に出頭したこと等によつて看取される)、両親に対しては少年の保護育成を十分に期待し得ない状況にあること等記録に現われた諸般の事情に照らすと、少年を健全に保護育成するためにはこの際少年を施設に収容し、これに矯正保護を施すのが最も適切妥当な措置であると考えられるから、少年を中等少年院に送致する旨の決定をした原裁判所の処分は相当であり、所論の被害弁償の事実及び少年がこれまで保護処分に付せられたことがないこと等を考慮に入れても、なお右処分は著しく不当であるということができないから、論旨は理由がない。
よつて本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項を適用し、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 松村寿伝夫 裁判官 小川武夫 裁判官 河村澄夫)